会長のご挨拶

 

中国では紀元前5世紀に孔子が「遠き慮りなければ必ず近き憂いあり」(論語:衛霊公)と言っている。日本人は儒教をよく勉強したので、当然この言葉は理解していた。しかし日本人の国民性は楽観的なのか、遠い将来を考えて対策を講じるのはむしろ苦手で、一旦ことが起こってからの対処は比較的上手である。

そのせいか将来の危機を警告した先駆者は“狼少年”扱いをされたり、排斥されたことも多かった。特に公害問題ではそれが顕著であった。

その隙をついて1999年に全世界が滅亡するという本『ノストラダムスの予言』が出版されがミリオンセラーになり、映画化もされて、文部省が推薦するという事態に陥った。

もちろん事前に危機を察知し、対策を講じる方が安上がりでもあるし、器物や人命のロスも避けられる。しかし人智では予知できない事態が発生することもある。またうっかり見落としてしまうような人為的ミスもある。しかし分かっていても資金難で対策が打てないことが圧倒的に多い。

 

鍋に水とカエルを入れてゆっくりと水の温度を上げていくと、カエルは気づかずに死んでしまうという、いわゆる「茹でガエル現象論」がある。しかし実際は、カエルも馬鹿ではないから、生物学的には正しくはないそうだ。

しかし日本人の多くに、いわゆる「茹でガエル現象」が見られる。日本人が必死に働いてGNPでドイツを抜いて世界第2位となったが、最近中国に抜かれて世界第3位にランクが下がった。しかも2015年の1位のアメリカ(17,947ドル)の1/4以下、2位の中国(10,982ドル)の半分以下という大差である。

 

人口が違うから仕方がないというなら1人当たりで比較すると順位はさらに下がってしまう。すなわち2015年の日本人の個人所得は世界26位(32,485ドル)で、1位のルクセンブルグ(101,994ドル)の1/3以下、2位のスイス(80,675ドル)の半分以下である。

多くの日本人は勤勉で残業も厭わず、良く働くのになぜこんなに大差がつくのか。生産性が低い原因は何か。それをどう改善すればよいのか。問題山積である。

 

教育ではというと、大学のランキングはさらに低い。1位:カリフォルニア工科大学 USA 2位: オックスフォード大学 UK 3位: スタンフォード大学 USA 4位: ケンブリッジ大学 UK 5位: マサチューセッツ工科大学(MIT) USA 6位: ハーバード大学 USA 7位: プリンストン大学USAに比して、日本の秀才が集まる東京大学が43位:京都大学は88位という始末である。しかもアジアでも26位:シンガポール国立大学、42位:北京大学よりもランクが低い。

最近のゆとり教育は間違いだったのか。昔の詰め込み教育は暗記力の勝負だった。しかし人間の記憶量は、CD数枚、USB数個にも劣るに違いない。脳を記憶媒体として使うよりも、演算回路として使い、アイデアを出したり、考えたりすることに使うべきだろう。

 

国家100年の計を立て実行する責任があるのは政治家と官僚である。ところが日本の政治家の多くは、現在の政局や次の選挙が最大の関心事であって、遠き慮りがないように思われる。官僚は省益を優先し、国民の利益が阻外されている。

その最たるものは、国民の嫌がる増税を先延ばしにした結果、ついにGNPの2倍以上の1,000兆円もの国債である。まさにアフリカのジンバブエと1位争いをする借金大国である。国民1人あたりでも800万円以上になる。ギリシャやスペインとは違い、日本国債の持ち主はほとんど日本人だから大丈夫と言う説がある。それでは日本人は働くことを止めて、日本のサラ金から借金をして暮しても国内だから良いのだろうか。

 

このような凋落傾向にある日本の現実を直視し、子や孫やひ孫が安心して住める日本を残してやりたい。このままでは、頭の良い若者は「年金も貰えない我々が、なぜ父や祖父や曾祖父が残した借金を払わなければならないのか」と日本国籍を捨てて、アメリカ国籍を取得するかも知れない。頭の悪い若者は、外国資本に買収された多くの日本企業で、外国人上司に英語で説明をしなければならないかも知れない。それが嫌ならフィリピンに行って「介護のお仕事をさせて下さい」と頼むしかない。これをあまりにも悲観的だと思うか、あり得ることだと思うかは、個人の人生観によるだろう。そんなことは考えたこともなかった、というのが一番怖い。

 

22世紀学会はせめて日本と世界の22世紀までの持続可能性を研究するために設立された。現在3つの研究会を開催している。

「アイデア実現研究会」(毎月開催)は、学生、主婦、定年後の技術者などがアイデアを考え、目利きがそれを評価し、有望なものを弁理士が特許出願し、その費用は投資家が出し、技術移転コンサルタントが内外の企業にその特許をライセンスし、ライセンス・フィーを発明者、目利き、弁理士、投資家、コンサルタントで分けようというのである。

先進国では製造業からサービス業に重点が移りつつある。22世紀には日本も知的所有権、教育、医療などのサービスが、ものづくりを抜くだろう。

 

「国際ビジネス研究会」(奇数月開催)は、島国日本ではどうしても国際性が乏しくなる。英語が話せないので留学したくない、という学生が増えている。ハーバード大学への日本人留学生は1桁しかいないが、中国人は400人もいるという。これはハーバード大学の学士号、修士号や博士号の多さだけでなく、アメリカ人や他の国からの留学生との人脈で将来のビジネスや外交に多大の格差が生じる。またせっかく商社に就職したのに、海外勤務を命じられると辞職する社員がいるという。これでは日本はガラパゴス化してしまう。

国際ビジネス研究会では、外国人、日本人の海外駐在員などを招いて、海外の生の情報を得ている。

 

「ベンチャー研究会」(偶数月開催)の趣旨はもっとベンチャーを創業しようというのである。現在の日本の創業率は廃業率よりも低く、このままでは22世紀までに、日本には企業がなくなり失業者が街に溢れることになりかねない。そこで若者、女性、定年退職者などのベンチャー起業を促すべく、ベンチャーの成功者、失敗者の話を聞き、創業予定者のビジネスプランの問題点を指摘したり、改善のアドバイスをして、成功確率を高めようとしている。将来計画としてはクラウドファンディングで創業資金の調達も手掛けたい。

 

この他の研究会をやりたい方は、3名の会員が賛成すると開催できる。ただし出席者が10名以下になると解散しなければならない。

また22世紀学会を法人化して、事業を始める計画も練っている。

 

ぜひ一緒にやりましょう。

22世紀学会 会長 柳下(やなぎした)和夫(かずお)

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